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 ついに念願がかなった。

 12月2日のハンブルガーSV(HSV)との試合で、長谷部誠は今季初めて本来のポジションであるボランチとして起用された。前の試合で一時的にプレーする時間帯はあったのだが、試合開始時から中盤の底でプレーする機会を得たのは初めてだった。

 長谷部は、10月27日にチームがケストナー暫定監督の下でリスタートを切ってから全ての試合にスタメンで起用されている。だが、ポジションは右サイドのMFだった。攻撃時にはウイングのようにサイドに開き、守備の際にはボランチに近いポジションにまで下がってバランスを取る。チーム2位の走行距離を記録しているように、誰よりも走る。

 自分の本職とするポジションではないからこそ、新たな挑戦にもつながる。例えば、11月18日のホッフェンハイム戦で今季初ゴールを決めたあとに長谷部は話していた。あのポジションで出るならば、シーズン5点はとるようにしないといけない、と。その真意を長谷部はこう明かす。

「右のウイングみたいな感じだから。あそこのポジションだったら、得点もアシストも求められる」

■「右MFをこなしているだけでは、意味がなくなる」

 長谷部はヴォルフスブルクに来てから1シーズンに決めるべき具体的なゴール数などを明かしたことはほとんどない。それを認めた上で、こう付け加える。

「攻撃の部分ではやっぱり、こっちに来てから得点というのがずっと足りなかった。そういう意味ではやりがいがあるし、このポジションで結果を出すという気持ちでやらないと。このポジションをこなしているだけということだと、意味がなくなっちゃうからね」

 どんな状況でもモチベーションを見出していく姿勢、それにチームのバランスを整える動きは長谷部にしか出来ないものだ。

 しかし、である。

 右MFで活躍すればするほど、本人がプレーしたいと考えるボランチでの出場機会は遠のいていく。夏に移籍を画策した理由のひとつには、ボランチでプレーしたいという欲求があったのだが……。

■ブンデスリーガでセンターラインを任されるための条件。

 現在、ヴォルフスブルクのダブルボランチはブラジル人のジョズエとチェコ人のポラークが務めている。ケストナー監督は、2人のパフォーマンスについて、手放しで賞賛している。

「彼らは良いプレーを見せているだけではない。チームを強くしてくれているのだ」

 長谷部も、2人のプレーを認めている。

「あの2人はハードワークして、相手の攻撃をつぶす。それで今は中央が落ち着いている部分があるから。あそこはちょっと代えないかなぁという感じはある。俺に足りないのは、ああやって中盤で相手をつぶすことだと思うんですよね。やっぱり、あいつらは相手をしっかりとつぶせるし」

 長谷部にとって、もどかしいのは、彼らがそれほどまでに自らとかけ離れた選手ではないことだ。今夏の移籍騒動がおちついたあと、長谷部はこう話していた。

「ブンデスリーガでセンターラインのポジションをやる難しさというのがあるのかなと改めて感じていますけどね。日本人というくくりで語るのはあまり好きじゃないけど、フィジカルが必要なセンターラインで常にプレーしている(日本人)選手というのは、今までも、今も、そんなにいないのかな」

■ボランチに復帰したい気持ちを持ってはいるが……。

 ただ、身長180cmの長谷部と比べると、ジョズエの身長は170cmで、ひとまわり小さい。あるいは、181cmのポラーク。彼がチームにやってきたとき、長谷部は「自分と似ているタイプの選手」だと語っていた。身長190cmの選手が2人中盤の底に並んでいるのであれば、フィジカルの差だけで片付けられるのかもしれないのだが、現状はそうでもない。

 長谷部は、たとえサイドのポジションで起用されても手を抜くことなどない。だが、ボランチでプレーしたいという願いが、この夏に彼を突き動かしたのはまぎれもない事実だ。レギュラーに復帰して1月ほどたったころ、監督に直訴しにいくことはあるのか、と問われて長谷部はこう答えている。

「その辺はバランスを見ないとね。チーム状況がよくて、信頼してサイドで使ってもらっている中で、いきなり、『俺のポジションはボランチだから、そこをやりたいんだよ!』みたいな感じで言ってもしょうがないから(笑)。その辺は、タイミングとか、そういうのもあるんじゃないかな」

■久々のボランチでのプレーは、可もなく不可もなし。

 ケストナー監督のもとでボランチのキーマンとなっている2人との比較についてはこう話す。

「ただ、自分の長所を考えると、相手をつぶすところで勝負するというよりは、ゲームの組立てとかで勝負しなきゃいけないので。まぁその辺はもどかしいんですけど、しょうがないですね」

 そんな状況で迎えたのが、冒頭のHSV戦だったのだ。ジョズエが怪我で戦列を離れ、控えのボランチであるトレーシュも風邪で欠場したからまわってきたチャンスだった。

「(ボランチで起用されるのは)試合の2時間前くらいにわかったので、ちょっといつもとは違うというか、やっぱりボランチでやれる楽しみというか、そういうものを感じながらやりました」

 この試合では相手に先制されながら、最終的にはDFキアルのヘディングで追いついて、1対1の引き分け。長谷部のプレーは、可もなく不可もなくといったところだった。試合後に長谷部が口を開いた。


■「攻撃でも、守備でもアピールしなきゃいけなかった」

「間違いなくチャンスだったし、そういう意味ではもう少しアピールしなきゃいけなかった。攻撃でも、守備でもね。次はたぶんジョズエも帰ってくるので、やっぱりジョズエが出ると思うし。まぁ彼なんかはボール奪取力とかがずば抜けてすごいので、こういうチームのやり方だと、そういう部分が大事かなと思うし。自分はもちろん、その部分は上げていきながら、展開力とかでアピールしていきたいなと思います。まぁ、出来た部分もあったけど、満足できるプレーではなかった。次に今日みたいなチャンスがあったらもう少し活かしたいなと」

 年が明ければ、約1カ月にわたり冬の移籍市場が開き、選手の移籍が認められる。冬の間に移籍しようと画策する選手は少なくないだろう。今季が終わって、W杯の直前のシーズンに環境を変えることは、大きなリスクを伴うからだ。

 実力を伴った選手でも、環境が変わってすぐに実力を発揮できないケースもある。新たなクラブでの出番が限られれば代表での活動にも影響が出るから、W杯の直前のシーズンに移籍を避けたいと考える選手は少なくない。それは長谷部とて、例外ではないだろう。

■レギュラーとして活躍すれば、移籍はますます困難に。

 また、1月からは現在のケストナー暫定監督に代わって、ヴォルフスブルクが新たな監督を招聘する可能性も高い。11月にGMに就任したアロフス氏がその準備を進めていると見られている。監督が代われば、起用される選手の顔触れにも変化が見られるだろう。

 ただし……。

 ポジションはどうであれ、監督が誰であれ、長谷部が現在のように絶対的なレギュラーとして活躍すればするほど、チームからすれば手放しがたい存在になっていく。例えば、11月28日のボルシアMG戦では、長谷部は右MFとしてスタートして、試合中にボランチ、右SBと計3つのポジションでプレーすることになった。そんな貴重な存在を誰が喜んで送り出すだろうか。

 だが、ヴォルフスブルクにとどまれば、このチームで長谷部は齢を重ねていくことになる。積み上げた年齢、経験は選手にとって勲章だが、移籍“市場”ではマイナス要因として評価されることもある。だから、いまの長谷部が実は袋小路に入り込んでいるようにも見えるのだ。


■袋小路に入り込んだ長谷部は、状況を変えられるのか?

 長谷部はこの冬については明言を避けている。

「それはわからない、今はね。今は何も言うことがない、今は」

 でも、と切り出してから、こう話した。

「今、やることは自分が良いプレーをすることしかない。後先のことを考えて、手を抜くなんて、そんなことは出来ないからね。今をしっかりやらなきゃいけない。それだけです」

 今の活躍を見れば、ヴォルフスブルクが長谷部を手放したくないと考えていても不思議ではない。でも、さらに活躍を重ねれば、いくら移籍金を払っても長谷部を獲得したいと考えるクラブが出てくるかもしれない。将来を決めるのは長谷部の意志である一方、周囲の動き方、考え方次第によるところも大きいのだ。この複雑に入り組んだ状況を変える鍵は“運”なのかもしれない。

 長谷部はベストセラーとなった自身の著書「心を整える。」で「さぼっていたら、運なんて来るわけがない」と記している。さらに「運を口説くことに関しては、とことんうまくなりたい」とも。

 真摯なプレーを続ける長谷部はこの冬、運を口説けるだろうか。 



http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20121207-00000001-number-socc