サッカーニュースを中心としたまとめ


2012年12月12日

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 華やかな席に、一人浮かない顔があった。

 横浜アリーナで開催された2012年のJリーグアウォーズ。J2降格という厳しい現実を突きつけられて間もない遠藤保仁は、硬い表情でベストイレブンを受賞した。壇上、10年連続となる栄誉にも「(受賞は)ないと思っていたので……」と戸惑いを隠せないように低いトーンで声を発した。それでも最後には「来年は違うステージですけど、優勝して再来年はJ1で強いガンバを見せたい」と気丈に言った。

 ガンバ大阪は今季リーグ最多の67得点を挙げながらの降格。課題であった守備の再建が図れず、最下位コンサドーレ札幌に次ぐ“準ワースト”の65失点を喫したことが残留争いを抜け出せなかった大きな要因だと言えた。全員の連動した守備を徹底できず、チームを降格させてしまったことに大黒柱である遠藤も責任を強く感じているようだった。

 彼は言うまでもなくザックジャパンの主軸。ブラジルW杯前年となる2013年は代表にとってもW杯最終予選、夏にはブラジル、イタリア、メキシコの強豪と同組に入ったコンフェデレーションズカップも控えるなど重要な一年となる。

 Jリーグ16年目で初めてJ2でプレーすることが代表でマイナスに働くことはないのか。そして遠藤自身、この現実をどう捉えているのか――。

■J2の過密日程は「実戦が多いほうがいい」と憂慮せず。

 今のところ、ガンバ残留が基本線である。

 最終節のジュビロ磐田戦に敗れて降格が決まった直後、遠藤は「契約が残っているので(チームに)残ります。今後どうなるかは分かりませんが」と含みを持たせながらも残留への意思を示したことはメディアにも大きく取り上げられた。この日、授賞式が終わってからも「長年一緒にプレーした選手もたくさんいる。10年以上ここでプレーしてきているわけだし、一番はまずガンバのことを思いたい」とコメントを残した。チームへの愛着を、あらためて口にした形となった。

 J2でプレーすることで何が遠藤に影響を及ぼしていくのか。

 まずJ1とJ2の違いにおいて、試合数の差が出てくる。18チームによるJ1は34試合だが、22チームによるJ2は42試合。単純計算でいくと8試合多くなることになる。だがここは大きな問題にはならないように思う。2012年の遠藤はリーグ戦34試合に全試合出場(チームではほかに藤春廣輝のみ)を果たし、ACLでは4試合、ナビスコカップ2試合とガンバ大阪でこれまで計40試合に出場している。

「僕はJ2が別に過密日程とも思っていないし、そこに関してはまったく気にしてません。自分の場合、より実戦が多いほうがいいし、試合数が多いのはいいことだと思っていますから」

 週に2度、試合があったほうがリズムをつくりやすいタイプと公言したこともあるほど。本人も試合数の増加はまったく気にしていないと言える。

■“格下”相手との戦いで自分のサッカーを磨けるのか。

 日程より問題になるのは、やはり「レベル」だろうか。

 昨年は柏レイソルがJ2から昇格して即、優勝を果たし、FC東京もJ2制覇を決めた後で天皇杯を制した。今年もサガン鳥栖が昇格1年目で5位に躍進している。昇格した3チームのうち、1年で降格の憂き目にあったのは最下位のコンサドーレ札幌のみだ。以前よりJ1とJ2のレベルが多少縮まっているのは間違いない。ただそうは言っても、カテゴリーの実力差は確実にある。

 現有戦力をある程度維持できればJ2でガンバに匹敵するチームは、同じく降格するヴィッセル神戸ぐらいだろう。ゆえにガンバと対戦するJ2のチームのほとんどが“格下”と言え、大体の相手が守りを固めて戦ってくることは容易に想像できる。

 遠藤としては10月の欧州遠征でフランス、ブラジルと対戦してきたことで来年はより世界を意識して自己のレベルを上げる一年としなければならない。そのためには“格下”よりもJ1のライバルチームたちと戦って揉まれたほうが、自身のレベルを上げていける確率は高い。それがJ2だと難しいわけだ。

■「今は天皇杯を全力で勝ちに行くことだけを考えている」

 一方で欧州の舞台で揉まれているザックジャパンの面々は間違いなく世界を意識して確実にレベルアップしてくるはず。遠藤にとってレベルの停滞はどうしても避けなければならないが、環境の違いで成長の速度にも影響が出てくる怖れがあるということだ。

 もちろん同僚の今野泰幸などのように、J2でプレーしながらレギュラーの座を不動のものにしてきた例もある。ただ、レベルの下がった環境で自分のレベルをグッと引き上げることは決して容易でないのは確かだ。

 遠藤からすればそれは百も承知なのだろう。そこで環境の差を少しでも埋めるために彼が視線を向けているのは「今」。来年のことなどではなく、4回戦まで勝ち進んでいる天皇杯なのである。

 彼はきっぱりとこう言い切った。

「今は天皇杯のことしか考えていないんです。(今後のことを考えるのは)それが終わってからでも十分に時間はあるし、今は全力で勝ちに行くことだけを考えている。優勝してACLの切符を取ることも目標ですから、これから天皇杯に向けていい準備をしていかなきゃいけない」

■天皇杯を制し、ACLに出場することがW杯につながる。

 天皇杯に勝ってACL出場権を得られれば、アジアの強豪と戦うことができる。つまりJ2にいながらもACLの戦いに身を置くことが、チームのためにも個人のレベルアップのためにもなると確信している。アジアトップとの戦いがつながってくることで、メンタル的な効果もあるだろう。J2、ACLと試合増となっても、それは遠藤にとって望ましい事態でもある。

 天皇杯は是が非でも取らなければいけない――。遠藤の鋭い目はそう言っているようだった。

 来年J2でいかに戦うか。ACLの望みが断たれたときに移籍はあるのか。

 周囲の心配をよそに、彼自身、今は一切そんなことを頭に入れていない。

「ガンバの遠藤、日本の遠藤」

 長年うまく両立を図ってきた2つの顔を崩さないことが、ブラジルW杯に向かう彼にとってはベスト。そのためにACLのチケットを勝ち取るしかない。天皇杯を制することができれば、沈み切ったチームの自信回復にもつなげられる。天皇杯が終わらなければ次を考えられないというのは、嘘偽りのない本音だろう。

 漂わせる悲壮感と覚悟。

 遠藤保仁の2012年シーズンはまだ終わっていない。


(「日本代表、2014年ブラジルへ」二宮寿朗 = 文)

http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20121210-00000001-number-socc










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