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 自らの「弱さ」を口に出せるのは、本当に弱い人間か、誰にでもある弱い部分を認めて、そこに打ち勝っていこうとする強い人間のどちらかだろう。

「自分はもともと上手い選手ではない。上手くなければ練習するしかない。休みがあるのであれば練習して、いろんな海外組の他の選手との距離を縮めなきゃいけないんです」

 淡々とそう語るのはレバークーゼンの細貝萌だ。

 昨年の細貝は上半期('11-'12シーズンの後半戦)をアウクスブルクの一員として、下半期('12-'13シーズンの前半戦)を強豪レバークーゼンの一員として戦った。

 昨シーズンの後半戦、アウクスブルクでは出場停止となった1試合をのぞいて、すべてのリーグ戦に先発。強豪クラブのレバークーゼンへと戦いの場を移して挑んだ今シーズンの前半戦は、開幕前に細貝の先発を予想するメディアはドイツでも日本でも皆無だった。にもかかわらず、気がつけば17試合中で12試合に出場している。これはレバークーゼンの選手の中で11番目の成績。つまり、準レギュラーと言っても良い活躍を見せているのだ。左サイドバックのレギュラー格であるカドレツが怪我したことも出場試合数を伸ばせた要因だったのだが、そのことがバイエルンを追走する2位でシーズン前半戦を終えたレバークーゼンにおいて12試合でプレーした価値を落とすことはない。

■「自分は上手い選手ではないです」と子供たちに告白する細貝。

 2012年の年の瀬、冬休みを利用して、レバークーゼンの実質的な親会社にあたるバイエル社が東京都内で親子サッカー教室を開催した。参加した親子たちが、細貝と一緒にサッカーを楽しんでいたからだろう、会場となった体育館は笑顔が溢れ、活気が満ちていた。

 イベントが終わったあとに、細貝は子供たちに語りかけた。

「自分は上手い選手ではないです。でも、気持ちを前面に出してやってきたことで、今までの自分のサッカー人生を切り開いてきたので、これからも強い気持ちを持ってやっていきたいなという風には思っています」

 こうした言葉を子供たちに伝えることのできる細貝が、弱い人間なのか、それとも弱さに打ち勝っていこうとする強い人間なのか、答えはあきらかだろう。

 ドイツに住む細貝は、バイエル社からサッカー教室に参加してほしいと打診を受けたとき、快く了承すると当時に、日本に滞在する時間は出来るだけ短くして欲しいと伝えた。

 ブンデスリーガでプレーする選手がまとまった休みをとれるのはシーズンオフとなる6月とその前後、そして年末年始に設けられたウインターブレイクだけだ。祖国である日本を離れて戦っている選手たちは、休みの間には出来るだけ長く日本で過ごそうとする。日本には、言葉で不自由することのない環境が用意されていて、食べなれた食事があり、家族がいて、心を許せる友人や知人がいるからだ。

 しかし、細貝は違う。

 アウクスブルクでプレーしていた昨シーズンのウインターブレイクには、日本に帰ることはなかった。

■オフにはギリギリまで日本に滞在しようとする選手達。

 今シーズンのウインターブレイクではサッカー教室のために2泊4日の強行スケジュールで日本に滞在しただけだ。残りはヨーロッパで過ごしている。そんなブンデスリーガの日本人選手など、他にいない。だから、同じドイツで戦う他の日本人選手からは冷やかされる。

「みんな基本的には、(ウインターブレイクに突入したら)すぐに日本に帰って、ギリギリにドイツに戻るという感じ。だから、『なんで日本に帰ろうとしないの?』と言われますよ(笑)」

 オフをどのように過ごすのかは選手それぞれにあったやり方があり、その過ごし方に良いも悪いもないと言いながら、自らのウインターブレイクの過ごし方についてはこう説明する。

「ヨーロッパでシーズンを戦うにあたって、むこうで生活することがすごく大事だと思います。日本にいれば普段会えない人と会いたいと思うし、家族とも会える。でも、1年に1回(シーズン終了後には)会えるわけですから。自分としては、こっち(日本)にいて色んな人と食事に行ったりするよりは、ドイツに残って、のんびりとシーズン再開に向けて生活しているほうが、結果的にいい。そうした方がシーズンを終えたときに悔いがないと思うんです」

■日本代表の試合後のわずかなオフさえも練習に割く徹底ぶり。

 同様のエピソードならば事欠かない。

 例えば昨シーズン終了直後、W杯最終予選を含めた日本代表の活動を終えたあとのオフのこと。少しの休暇を挟んだ後、細貝はグアムに向かっている。多くの選手が日本で羽を伸ばしたり、リゾート地で体を休めていたのだが……。グアムで行なったのは、今シーズンに向けた自主トレーニングだった。

 ちなみに、細貝は昨シーズン、ブンデスリーガで戦ったすべての日本人選手のなかで最多となる32試合でプレーしている。それだけ多くの試合でプレーしたのだから体を休めることに専念するという選択肢もあったはずだが、細貝が選んだのは今シーズンに向けて最高の準備をするという道だったのだ。

「試合に使ってもらうというのはすごくポジティブだし、それで自分は成長できる。ただ自分は試合に出たときにプレーにすごくムラがあるんですね。そういうのをなくすためにはやっぱり、出来ることをやっていかないといけないのかなという風には思うんですよ」

■本田圭佑や長友佑都と同学年の細貝。

 1986年6月10日生まれの細貝は、日本代表でいえば本田圭佑や長友佑都と同学年だ。メディアでその活躍が事細かに伝えられる“同級生”たちのかげで、ひっそりと、それでいて徹底的にサッカーに対して生活の全てを捧げているのが細貝という選手なのだ。

 レバークーゼンの'12-'13シーズン後半戦は1月19日のフランクフルト戦で再開する。左サイドバックのレギュラー格であるカドレツが怪我から復帰する予定だ。さらに、しばらく実戦から離れていたために前半戦は思うように出場機会を伸ばせなかった、ポーランド代表の左SBをつとめる実力派のボエニシュもコンディションを上げてきている。そんな状況でも細貝が悲観することはない。

「確かに(左SBとして)自分が出られなくなる可能性は高くなるかもしれない。でも、そのおかげで練習のときから(本職である)真ん中のポジションでプレーできる回数は増えてくる。そういうポジティブなところがあるのかなと僕は思っていますけどね」

■日本人サッカー選手の中でも群を抜くプロ意識こそが細貝の武器。

 4-3-3のフォーメーションを採用するレバークーゼンの中央には3つの椅子が用意されている。だが、そこにはドイツ代表のL・ベンダー、下部組織出身でドイツ代表経験もあるライナルツ、そしてチームのキャプテンであるロルフェスらがレギュラーとして立ちはだかる。決して簡単に奪い取れるポジションではない。

「左サイドバックというのはハジ(細貝)の理想のポジションじゃない。もっとも、(チーム事情により)少なくともウインターブレイクまでは左サイドバックでプレーすることになるだろう。ただ、ハジが今やってくれているのはすごいことで、褒めたたえないといけないことなんだ」

 昨年11月にそう語っていたレバークーゼンのレバンドフスキ監督。

 2012年最後の試合となったドイツカップのヴォルフスブルク戦では、細貝を中盤の底、アンカーのポジションで起用している。

 多くの日本人選手のブンデスリーガ移籍にかかわってきた代理人のトーマス・クロートは日本人選手の持つ魅力の一つに、サッカーに取り組む姿勢を挙げる。プロ意識が高く、節制をして、サッカーに真摯に取り組むのが日本人の大きな「武器」というわけだ。

 レバンドフスキ監督のコメントからも細貝のサッカーに取り組む姿勢が高く評価されていることは明らかだろう。

 細貝は、日本人選手の中でもトップクラスのプロ意識を「武器」に、リーグ2位のクラブの能力の高い選手がひしめくポジションで戦っていこうとしているのだ。


ミムラユウスケ = 文
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20130116-00000002-number-socc






この記事の反応


 ◇ 萌ちゃんの真面目さというか、現状に満足しないで一歩ずつ進んでいこうという気持ちが伝わります。

 ◇ 細貝ってかなりストイックな選手なんだ。好感度上がった!

 ◇ 代表戦でも僅かな出場時間ながら見せる「気持ちの入った」プレーは好感度が高い。
    監督からしても「頼んだよ」って送り出したくなる選手じゃないかな。


 ◇ ここまでかけられるってのはほんとすごい。
   ただそれが唯一の道ではないことは考えないといけないところ。


 ◇ 頑張って欲しい選手!

 ◇ 「アウクスブルクでプレーしていた昨シーズンのウインターブレイクには、
   日本に帰ることはなかった。」凄いね!


 ◇ 日本人選手の中でも、スバ抜けてプロ意識の高い、細貝萌。

 ◇ けっこうドイツで地味に活躍してるんですよね。
    レバークーゼンに戻って苦労するだろうなと思ってたので、この出場は予想外でしたが^^;
    一生懸命さは確かに伝わってくるプレイヤーかと。


 ◇ すばらしいプロ精神

 ◇ 本当にすごい選手。いつまでも応援する!!

 ◇ 正直期待している。代表には長谷部がいるけど食い込んでほしいわ